自慢のカレ
<幕間 1>

 グリフィスとヤマトがなるようになった後の。レーネ家の面々や村人たちの「波乱の収穫祭」についての心情、心境


レーネ家次男ハルカの妻サクラ(28歳)の証言

『いやあの時は、マジでビックリしましたよ。
普通なら村の歴史に残る出来事よね。まあ何だか良く分からないけど、政治的配慮とやらで結局緘口令が敷かれて、表面上無かったコトになっちゃいましたけど。でも人の口に戸は立てられませんもの、ずーっと村人の間では、語り継がれると思うわよ?多分有る事無い事イロイロ尾ひれが付いちゃうと思いますけどね。おほほ。
まあとにかく。貴族サマなんて、雲上人。王都に住んでいるならともかく、こんな僻地の村の人間なんか生涯お会いするどころか目にすることも無いのが当たり前だっていうのに。いきなり王様の親戚筋の大貴族の登場でしょ。あそんでもって物凄い美形!!とにかくアマリの事に、アタシは一瞬祭りの余興かと思っちゃいましたよ。
まあとにかくその凄いイケメンのお貴族さまが、何と何と、村人全員の前で跪いてウチのヤマト(ヤァ)くんにプロポーズなんて。
有り得ないでしょう、普通。

お前は、白馬に乗った王子様か(実際は黒馬に乗った公爵家の嫡男だった)!!

ハーレクインロマンスお伽噺じゃあるまいし。やっぱり余興だったんだ、と思ったわよ。今回の祭りは趣向を凝らしてるなあ、って。多分村人は、ホトンドそう思ったんじゃないかしら。だって、そう思っても仕方が無いでしょう?
今思い出しても、アレは夢だったんじゃないかしら、って思うもの。』


レーネ家四男ヒナタの妻スミレ(25歳)の証言
『何が驚いたって、ヤアくんよ。
いきなり大声で怒鳴ったかと思うと、公爵さまにアッパーカット・・・・!!!
たまげたなんてモノじゃなかったわ。
ヤアくんが声を荒げたこも見たことなかったっていうのに・・・!!
ましてや、暴力を振るうなんて。
ヤアくんて、いっつも自分の意見を主張しないで、オドオドと他人の顔色ばっかり覗って、何か生まれてきてゴメンなさい!!みたいな雰囲気があって、正直イライラすることもあったのよ。
でも驚いた。
公爵さまに対する態度って。何だか何だか、何と言うか凄く歳相応に分別が無くて、ぜんぜん我慢なんてしてないっぽくて、どっちかというと短気、みたいな・・・。
でも案外、あれがヤアくんの地なのかもしれないわね。
何かあの姿を見て私、というか義姉3人で笑っちゃったわ。なんか嬉しくて、ね。
だって、自分らしく生きるって大切なコトでしょう?いっつも村であの大きな身体を縮めて目立たないようにヒッソリと生きていたヤアくんが、背筋を伸ばして大声を出して生きていける場所が出来たんなら・・・。それは家族としては、凄く嬉しいことじゃない?』


レーネ家次男ハルカ(29歳)の証言
『勿論っ!!
今思い出しても、腹が立つ。
一体全体、ナンだってんだ、あの野郎!!
いきなりプロポーズだあ!?身分から言っても無理だろうが。少しは、常識ってもんを考えて欲しかったね!!
大体・・・。よしんば本気だとしても・・・っ!!

どうせ、毛色の変わった妾が欲しかっただけだろう!?と思ったし。
側室の一人など・・・っ、ヤマトに勤まるワケが無いだろうがっ!!!と、思った。

お貴族さまの気まぐれで、ヤマトを傷つけるような真似はして欲しくなかったんだ。

あの我慢強くて強情なヤマトが、騎士団を辞めて、村に帰って来るなんて。
よっぽどのコトがあったに決まっている。
あのオトコが・・・。何かしたに決まっている。

殺してやりたかった!!

大貴族だか何だか知らないが、たたっ殺してやりたかった!!
俺はあの時、本気だった。
おそらくリュウ兄貴もヒナタも。

だが・・・。

ヤマト。
お前、本当にアレで良かったのか?
ヤマト。
お前が望むなら。これらだって、お兄ちゃんは何でもしてやるからな・・・。』


レーネ家四男ヒナタ(27歳)の証言
『・・・あの時。あの男の意図がどうであったであれ、本気で望まれたなら、レーネ家もこの村も絶対に拒めなかった。
ヴァロア公爵家を拒むということは、王家を拒むと同じこと。それは、この国では生きていくことが出来ないことを意味する。
だが。
俺たちは。正直、命に掛けても、ヤマトに絶対に無理強いはさせないつもりだった。
一族郎党を処刑するというなら、ヤマトとともに死ぬつもりだったし。
村を滅ぼすというなら、上等じゃねえか、と思っていた。
ぶっちゃけ、こんな村には義理はない。
酒場で、男たちがヤマトの身体のことを何と言っていたか・・・。俺は到底許せない。
ヤマトはずっと、この村で、イロイロなことに耐えてきた。この村を出るハメになったのも、そのせいだ。
そのせいで、あんなクソ野郎に見初められ・・・・。

護ってやるつもりだった。

ヤマトさえ、そう望めば・・・。
だが。
こればかりは、仕方の無いことだ・・・。』


レーネ家長男リュウ(32歳)の証言
『・・・・・・あの日のことは。そしてあの男のことは。生涯、口にしたくない。』


村娘 ナツメ(21歳)の証言
『それにしても、セイヤが留守で良かったわね?
この場に居たら、きっと血の雨が降ったわよ。
いやそれにしても公爵さま?
この世のものとは思えない美貌ってああいうのを言うのね。あの後村の女たちは、ああ、良いもの見せてもらったって公爵さまの凛々しい後姿を、思わず拝んでしまいましたもの。
私のカレもけっこうイケルと思っていたけど、アレ見せられちゃあ、ぶっちゃけ人間とサルって感じ?いや、流石にそれほど酷くはないけど、正直言ってそのくらいガッカリしちゃったわ。いきなり吹っ切れたって感じ?
それにしても、ヤマトって何よ?
一体、どういうこと?何?

ナニゲに魔性のオンナ?いや、オトコ?違うわね。オカマ?微妙・・・。まあ、そんなコトは、どうでも良いわ。

一体あの岩オトコのどこが、オトコ心をくすぐるって言うのよ!?ったくやってられないわ!!
兄弟たちの溺愛ぶりぶりは知っていたけど、他人にまで派生するとはね。
超ムカつく!!もっと徹底的に苛めてやれば良かったわ。ホント女の敵。あ〜あ。』


村長(むらおさ) ゴンジュウロウ・アマデウス(78)の証言
『あれは夢だったと、誰か言ってくれろ・・・。』


レーネ家長男リュウの妻ユリ(19歳)の証言
『・・・。(小さな笑い声)。
ああ、ごめんなさいね。何だか、ふと思ったの。
ヤアくんが女か男だったら、あんな騒ぎは起きなかっただろうなあ、って・・・。
女か男であったなら。ヤアくんは、多分この村の人間ホトンドがそうであるように、この村を出ることもなく一生を終えただろうな、って。
ヤアくんが特殊な身体をしていたからこそ、ヤアくんは騎士団に入団し、グリフィスさまと出会ったのよね。

運命って、不思議。

どんなコトでも最後にはつじつまが合うのよ。どんな些細なことでも、あたかも必然だったかのようにね。
ねえ。
こういう時。
私は、神の見えざる手を感じてしまう。

ヒトにはそれぞれ色んな役目を持っているものだけど、ヤアくんは、この国にきっと大きな役目を負って生まれてきたのかもしれないわ。
多分。きっとそう。』

−to be continued−

2007.07.21


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